特定防火対象物は、百貨店、旅館、病院、地下街、一部の複合用途防火対象物など、多数の者が出入りする防火対象物です。消防法第17条の2の5第2項第4号でこの名前が付けられ、範囲は消防法施行令(以下「令」)第34条の4で具体化されています。それ以外の防火対象物は、一般に「非特定防火対象物」と呼ばれます。
特定か非特定かで、消防用設備等の点検の報告の間隔、防火管理者を置く人数、法令が改正されたときの扱いなどが変わります。消防設備士試験では、甲種・乙種のどの類でも共通の消防関係法令で学ぶ論点です。この記事は、e-Gov法令検索の2026年10月時点の版(消防法は2025年6月1日施行の版、令は2025年10月1日施行の版、消防法施行規則(以下「規則」)は2026年6月26日施行の版)をもとに書いています。
特定防火対象物の一覧(令別表第一)
令別表第一は、防火対象物を用途ごとに(一)項から(二十)項に分けた表です。どの項が特定防火対象物に当たるかを並べると、次のとおりです。
| 項 | 主な用途 | 区分 |
|---|---|---|
| (一)イ・ロ | 劇場、映画館、演芸場、観覧場/公会堂、集会場 | 特定 |
| (二)イ〜ニ | キャバレー、ナイトクラブ/遊技場、ダンスホール/性風俗関連特殊営業の店舗など/カラオケボックスなど個室で遊興させる店舗 | 特定 |
| (三)イ・ロ | 待合、料理店など/飲食店 | 特定 |
| (四) | 百貨店、マーケットその他の物品販売業を営む店舗、展示場 | 特定 |
| (五)イ | 旅館、ホテル、宿泊所など | 特定 |
| (五)ロ | 寄宿舎、下宿、共同住宅 | 非特定 |
| (六)イ〜ニ | 病院・診療所・助産所/老人ホームなど避難が困難な人が入所する施設/デイサービス、保育所など/幼稚園、特別支援学校 | 特定 |
| (七) | 小学校、中学校、高等学校、大学、専修学校など | 非特定 |
| (八) | 図書館、博物館、美術館など | 非特定 |
| (九)イ | 公衆浴場のうち蒸気浴場、熱気浴場など | 特定 |
| (九)ロ | (九)イ以外の公衆浴場 | 非特定 |
| (十) | 車両の停車場、船舶・航空機の発着場(旅客の乗降・待合いの建築物) | 非特定 |
| (十一) | 神社、寺院、教会など | 非特定 |
| (十二)イ・ロ | 工場、作業場/映画スタジオ、テレビスタジオ | 非特定 |
| (十三)イ・ロ | 自動車車庫、駐車場/飛行機などの格納庫 | 非特定 |
| (十四) | 倉庫 | 非特定 |
| (十五) | 前各項に当たらない事業場(事務所など) | 非特定 |
| (十六)イ | 複合用途防火対象物で、一部が特定用途に使われているもの | 特定 |
| (十六)ロ | (十六)イ以外の複合用途防火対象物 | 非特定 |
| (十六の二) | 地下街 | 特定 |
| (十六の三) | 建築物の地階で連続して地下道に面するものと地下道を合わせたもの(準地下街。特定用途の部分があるものに限る) | 特定 |
| (十七) | 重要文化財などに指定された建造物 | 非特定 |
| (十八) | 延長50メートル以上のアーケード | 非特定 |
| (十九) | 市町村長の指定する山林 | 非特定 |
| (二十) | 総務省令で定める舟車 | 非特定 |
「特定用途」は、この記事では(一)項〜(四)項、(五)項イ、(六)項、(九)項イの用途を指します。令第21条や令第36条などの条文も、この組み合わせを何度も使っています。
特定防火対象物の範囲の決まり方
消防法第17条の2の5は、消防用設備等の基準が改正されても、すでにある建物には原則として改正前の基準を適用する、という規定(第1項。一般に「既存不遡及」と呼ばれます)と、その例外(第2項)を定めています。例外の一つが第2項第4号で、ここで百貨店、旅館、病院、地下街、複合用途防火対象物(政令で定めるもの)その他多数の者が出入するものとして政令で定めるものを「特定防火対象物」と呼んでいます。
| 何が入るか | 根拠 |
|---|---|
| 百貨店、旅館、病院、地下街 | 消防法第17条の2の5第2項第4号(法律で直接挙げている) |
| 複合用途防火対象物のうち(十六)項イ | 令第34条の4第1項 |
| (一)項〜(四)項、(五)項イ、(六)項、(九)項イ、(十六の三)項のうち、百貨店・旅館・病院以外のもの | 令第34条の4第2項 |
法律の列挙と令の2つの項を合わせると、特定防火対象物は(一)項〜(四)項、(五)項イ、(六)項、(九)項イ、(十六)項イ、(十六の二)項、(十六の三)項になります。
(十六)項イとロの分かれ目は、建物の一部に特定用途があるかどうかです。たとえば1階が飲食店で上が事務所のビルは(十六)項イ、1階が事務所で上が共同住宅のビルは(十六)項ロです。なお、主たる用途に従属する部分(管理の権原や利用形態などで判断)しかない場合は、複合用途として扱わず主たる用途の項に入れることがあります(令第1条の2第2項後段、別表第一備考一)。
特定か非特定かで変わる決まり
| 決まり | 特定防火対象物 | 非特定防火対象物 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 消防用設備等の基準が改正されたとき | すでにある建物も改正後の基準に合わせる | 原則として改正前の基準のまま(改正後に一定の増築・改築などをしたときなどを除く) | 消防法第17条の2の5 |
| 消防用設備等の点検結果の報告 | 1年に1回 | 3年に1回 | 規則第31条の6第3項 |
| 消防設備士・消防設備点検資格者に点検させる建物 | 延べ面積1,000平方メートル以上 | 延べ面積1,000平方メートル以上で、消防長または消防署長が指定したもの | 令第36条第2項第1号・第2号 |
| 設置したときの消防機関の検査 | 延べ面積300平方メートル以上(カラオケボックス、旅館・ホテル、入院施設のある病院・診療所、(六)項ロの施設などは面積にかかわらず) | 延べ面積300平方メートル以上で、消防長または消防署長が指定したもの | 令第35条第1項 |
| 防火管理者を定める収容人員 | 30人以上((六)項ロの施設と、それを含む(十六)項イ・地下街は10人以上。(十六の三)項は対象外) | 50人以上((十八)〜(二十)項は対象外) | 令第1条の2第3項第1号 |
| 乙種防火管理講習の修了者を防火管理者にできる規模 | 延べ面積300平方メートル未満((六)項ロの施設を含むものを除く) | 延べ面積500平方メートル未満 | 令第3条第1項第2号 |
| 防火対象物点検(防火対象物点検資格者による1年に1回の点検) | 収容人員300人以上のもの、または特定一階段等の構造のもの(防火管理者を定めるものに限る。(十六の三)項を除く) | 対象外 | 消防法第8条の2の2、令第4条の2の2、規則第4条の2の4 |
非特定防火対象物でも、消火器、避難器具と令第34条に挙げる設備(簡易消火用具、漏電火災警報器、非常警報器具・非常警報設備、誘導灯・誘導標識など)は、改正後の基準に合わせなければなりません(消防法第17条の2の5第1項、令第34条)。自動火災報知設備は、特定防火対象物と(十七)項などに設けるものがこの扱いです(令第34条第3号)。
点検の周期や点検できる人は 消防設備士乙6の点検と報告 と 消防設備点検資格者と消防設備士の違い に、自動火災報知設備が要る延べ面積は 自動火災報知設備の設置基準 にまとめています。
特定一階段等防火対象物
特定一階段等防火対象物は、特定用途の部分が避難階以外の階(1階と2階を除く)にあり、その階から避難階または地上に直通する階段(傾斜路を含む)が2以上設けられていない防火対象物です。階段が屋外に設けられているか、総務省令で定める避難上有効な構造のときは、1以上あればこれに当たりません。小規模特定用途複合防火対象物は除かれます(規則第23条第4項第7号ヘ)。
小規模特定用途複合防火対象物は、(十六)項イのうち、特定用途の部分の床面積の合計が延べ面積の10分の1以下で、かつ300平方メートル未満のものです(規則第13条第1項第2号)。
典型は、屋内階段が1本しかない雑居ビルの3階以上に飲食店やカラオケ店が入っているものです。階段が煙で使えなくなると逃げ場がないため、面積の小さな建物でも次のように決まりが重くなります。
| 決まり | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 自動火災報知設備 | 延べ面積にかかわらず設ける | 令第21条第1項第7号 |
| 階段・傾斜路の煙感知器 | 1種または2種を垂直距離7.5メートルにつき1個以上(通常は15メートル) | 規則第23条第4項第7号ヘ |
| 設置したときの消防機関の検査 | 延べ面積にかかわらず受ける | 令第35条第1項第4号 |
| 消防用設備等の点検 | 消防設備士または消防設備点検資格者に点検させる | 令第36条第2項第3号 |
| 防火対象物点検 | 収容人員300人未満でも対象(防火管理者を定める規模=収容人員30人以上、(六)項ロを含むものは10人以上に限る。(十六の三)項は対象外) | 消防法第8条の2の2、令第1条の2第3項、令第4条の2の2第2号 |
取り違えやすい文
| 文 | 正誤 | 根拠 |
|---|---|---|
| 共同住宅は、多数の人が住むので特定防火対象物である | 誤り | (五)項ロで非特定。特定はホテル・旅館などの(五)項イ |
| 幼稚園は、小学校と同じく非特定防火対象物である | 誤り | 幼稚園と特別支援学校は(六)項ニで特定。小学校は(七)項で非特定 |
| サウナなどの蒸気浴場は特定防火対象物で、一般の銭湯は非特定防火対象物である | 正しい | (九)項イが特定、(九)項ロが非特定 |
| 駅の待合室や美術館は、多数の人が出入りするので特定防火対象物である | 誤り | (十)項・(八)項で非特定 |
| 特定防火対象物の消防用設備等の点検結果は、3年に1回報告する | 誤り | 1年に1回(規則第31条の6第3項第1号) |
| 特定防火対象物では、基準が改正されると既存の建物の消防用設備等も改正後の基準に合わせる | 正しい | 消防法第17条の2の5第2項第4号 |
ぴよパスのオリジナル予想問題で、特定防火対象物の論点を確かめられます。
用途ごとの覚え方は 消防設備士乙4 法令の覚え方 でも扱っています。
出典
- 消防法 第8条の2の2・第17条の2の5(e-Gov法令検索・2025年6月1日施行の版)
- 消防法施行令 第1条の2・第3条・第4条の2の2・第21条・第34条・第34条の4・第35条・第36条・別表第一(e-Gov法令検索・2025年10月1日施行の版)
- 消防法施行規則 第4条の2の4・第13条・第23条・第31条の6(e-Gov法令検索・2026年6月26日施行の版)
当サイトの問題は消防設備士試験の問題ではありません。法令をもとに独自に作った練習問題です。消防試験研究センターとは関係ありません。


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