有機溶剤作業主任者技能講習は、労働安全衛生法第14条に基づき、有機溶剤中毒予防規則 (有機則) 第37条が定める学科4科目・合計12時間の講習と、その後の修了試験で構成されています。登録教習機関 (都道府県労働局長の登録を受けた機関) が全国で実施し、修了証があれば事業者が有機溶剤作業主任者に選任できます。実技はありません。
「講習を聞いていれば受かる」と言われる一方で、修了試験に落ちて再受講になる人はいます。理由の多くは、2日間で一気に出てくる数字 (制御風速、換気量の式、健康診断や測定の頻度、記録の保存年数、区分の表示色) を整理しないまま試験に臨むことです。ぴよパスでは、有機則・労働安全衛生法令・作業環境評価基準・防毒マスクの選択に関する通達の条文で接地したオリジナルの四肢択一40問を、4科目それぞれに用意しました。このページは、その40問の使い方と、講習と修了試験の形式、検索でよく聞かれる「廃止されるのか」の現状を1か所にまとめたものです。
技能講習と修了試験の形式 (有機則第37条と登録教習機関の案内から)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠 | 労働安全衛生法第14条、労働安全衛生法施行令第6条第22号、有機溶剤中毒予防規則第19条・第37条 |
| 実施 | 都道府県労働局長の登録を受けた登録教習機関 (労働基準協会、労働衛生技術センター、教習所など) |
| 講習 | 学科のみ。健康障害及びその予防措置に関する知識 4時間 / 作業環境の改善方法に関する知識 4時間 / 保護具に関する知識 2時間 / 関係法令 2時間 (合計12時間・2日間が一般的) |
| 修了試験 | 学科講習の後に実施。形式・問題数・合格基準は機関ごと (公開例: 関西労働衛生技術センターの例題は四肢択一で下線部の誤りを選ぶ形式) |
| 受講資格 | 法令上の学歴・経験の要件なし。機関の案内では満18歳以上とする例 (愛知労働基準協会) |
| 受講料 (例) | 労働技能講習協会 東京 13,710円 (受講料11,510円+テキスト代2,200円) / 愛知労働基準協会 14,000円 (11,800円+2,200円)。2026年9月時点 |
| 合格率 | 全国集計は公表されていない (機関ごとに実施するため) |
| 修了証 | 全国で有効。有効期限や更新講習の定めはない |
修了試験の中身が機関ごとに違うのは、免許試験のように国が一括で実施する試験ではなく、各登録教習機関が講習の到達度を確認する試験だからです。ただし出題範囲は有機則第37条の4科目に固定されているので、練習の対象は絞れます。同じ仕組みの フォークリフト運転技能講習の学科 や 玉掛け技能講習の学科 と考え方は同じです。
4科目と練習問題40問の対応
講習時間の比率 (4:4:2:2) に合わせて、時間の長い2科目を12問ずつ、短い2科目を8問ずつにしています。
| 科目 (講習時間) | 練習問題で扱う論点 |
|---|---|
| 健康障害及びその予防措置に関する知識 (4時間・12問) | 揮発性と脂溶性 (皮膚吸収)、急性中毒と慢性中毒、尿中代謝物 (馬尿酸・メチル馬尿酸・2,5-ヘキサンジオン)、二硫化炭素の眼底検査、健診の時期と第三種の扱い、個人票5年と結果報告、応急処置 (平成27年改正後)、掲示事項、赤・黄・青の表示、混合物の区分 (5%)、特化則へ移った物質、事故時の退避 |
| 作業環境の改善方法に関する知識 (4時間・12問) | 対策の優先順位、区分ごとの設備 (密閉・局排・プッシュプル・全体換気)、フードの型式と制御風速、全体換気量の計算、ダクト・排風機・排気口、定期自主検査と点検、換気装置の稼働とバッフル、A測定とB測定、管理区分の判定、管理濃度と評価値、第三管理区分の措置 |
| 保護具に関する知識 (2時間・8問) | 送気マスクが必要な業務、保護具の数と労働者の使用義務、防毒マスクと酸素欠乏、吸収缶の破過と使用時間の管理、フィットテストとシールチェック、皮膚等障害化学物質等の保護具、保護具着用管理責任者、要求防護係数と指定防護係数 |
| 関係法令 (2時間・8問) | 作業主任者の選任と4つの職務、氏名等の周知と職務分担、技能講習の科目、作業環境測定の対象と頻度、罰則と計画の届出、有機則の適用範囲と認定、貯蔵と空容器の処理 |
解説は正解の肢だけでなく、残りの3肢がなぜ誤り (または正しい) のかを条番号付きで書いています。講習のテキストで該当箇所を読み直すときの索引として使ってください。
数字で決まる論点 — 先に覚える12個
修了試験で差がつくのは「知っているか知らないか」だけの数字です。有機則と関連する告示から、練習問題で繰り返し出てくるものを並べます。
| 論点 | 数字 | 根拠 |
|---|---|---|
| 局所排気装置の制御風速 | 囲い式 0.4 m/s、外付け式 側方・下方 0.5 m/s、上方 1.0 m/s | 有機則第16条 |
| 全体換気装置の換気量 (m3/分) | 第一種 Q=0.3W、第二種 Q=0.04W、第三種 Q=0.01W (W は1時間の消費量 g) | 有機則第17条 |
| 作業環境測定 | 6月以内ごとに1回、記録3年 (第一種・第二種のみ) | 有機則第28条 |
| 特殊健康診断 | 雇入れ・配置替え・6月以内ごと、個人票5年保存 | 有機則第29条・第30条 |
| 局所排気装置の定期自主検査 | 1年以内ごとに1回、記録3年 | 有機則第20条・第21条 |
| 作業主任者による換気装置の点検 | 1月を超えない期間ごと | 有機則第19条の2 |
| 区分の表示色 | 第一種 赤、第二種 黄、第三種 青 | 有機則第25条 |
| 有機溶剤等になる含有率 | 重量の5%を超える | 有機則第1条 |
| 排気口の高さ (空気清浄装置なし) | 屋根から1.5m以上 | 有機則第15条の2 |
| 管理区分 (A+B測定) | B測定値が管理濃度の1.5倍を超えると第三管理区分 | 作業環境評価基準第2条 |
| 局所排気装置の計画の届出 | 工事開始の30日前まで | 労働安全衛生法第88条 |
| 作業主任者を選任しない罰則 | 6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 | 労働安全衛生法第119条 |
管理濃度 (作業環境評価基準の別表) は、トルエン20ppm・キシレン50ppm・アセトン500ppm・ノルマルヘキサン40ppm・メタノール200ppm・二硫化炭素1ppmのように物質ごとに違います。数字を全部覚える必要はありませんが、「管理濃度は作業環境管理の良否を判断する指標で、個人のばく露限界ではない」という位置づけは出題されます。
直感と逆の論点 — 古い知識が失点になる5つ
- 第三種有機溶剤等でも作業主任者は必要: 第三種 (ガソリンや石油系溶剤) は作業環境測定の対象外で、健康診断もタンク等の内部に限られますが、作業主任者の選任義務 (有機則第19条) は第一種から第三種まで共通です。
- トリクロロエチレンやクロロホルムは今は「有機溶剤」ではない: 2014年に発がん性を考慮して10物質が特定化学物質障害予防規則の特別有機溶剤へ移りました。古いテキストの「54物質」の一覧をそのまま覚えると、現在の別表第六の二と食い違います。
- 応急処置は「人工呼吸」「頭を低く」ではない: 掲示すべき応急処置は平成27年1月1日から、横向きに寝かせて気道を確保した状態で保温すること、意識がなければ消防機関へ通報すること、呼吸が止まったり正常でなければ仰向きにして心肺蘇生を行うことに改められています。
- 防毒マスクは万能ではない: 酸素欠乏のおそれがある場所では使えず、有機溶剤等を入れたことのあるタンクの内部では送気マスクに限られます (有機則第32条)。吸収缶の破過は臭いでは判断せず、使用時間を記録して限度内で交換します。
- 健康診断の項目に尿中蛋白はない: 令和2年の改正で必須項目から外れ、現在は業務の経歴、作業条件の簡易な調査、既往歴、自覚症状・他覚症状の4項目と、別表の物質ごとの検査です。
「有機溶剤作業主任者は廃止される?」— 2021年報告書と2026年の現状
検索で最も多い疑問です。厚生労働省の「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書」(2021年7月19日) は、化学物質管理を法令準拠型から自律的な管理へ移す方針を示し、特化則・有機則・鉛則・粉じん則・四アルキル鉛則について「自律的な管理の中に残すべき規定を除き、5年後に廃止することを想定し、その時点で十分に自律的な管理が定着していないと判断される場合は、特化則等の規制の廃止を見送り、さらにその5年後に改めて評価を行うことが適当である」と書いています。
一方で、2026年9月1日時点の有機溶剤中毒予防規則は施行中で、作業主任者の選任義務 (第19条) も技能講習の規定 (第37条) も変わっていません。2023年からは化学物質管理者や保護具着用管理責任者 (労働安全衛生規則第12条の6) の制度が始まり、作業主任者と役割を分担する形になっています。制度が見直されるとしても、換気・保護具・健康診断・掲示の考え方は自律的な管理でも必要な内容なので、講習で学ぶことが無駄になる筋書きは考えにくいと言えます。最新の状況は厚生労働省の化学物質対策のページで確認してください。
塗装や洗浄と並んで溶接・溶断も行う職場なら、ガス溶接技能講習 学科の練習問題40問 が酸素の支燃性やアセチレンの分解爆発といったガスの性質を同じ四肢択一で確認できます。
落ちる人の共通点と当日の準備
- 講習を「聞くだけ」で終える: 2日間で数十の数字が出ます。上の表の12個は講習中に印を付け、休憩時間に見直してください。
- 職務を混同する: 作業主任者の職務は「作業方法の決定と指揮」「換気装置の月1回以内の点検」「保護具の使用状況の監視」「タンク内作業の措置の確認」の4つで、定期自主検査 (事業者・年1回) や作業環境測定 (作業環境測定士) は職務ではありません。
- 形式を知らずに臨む: 四肢択一か、下線部の誤りを選ぶ形式か、○×かは機関ごとに違います。申込時の案内と講習初日の説明で確認し、練習問題で「誤っているものを選ぶ」問題に慣れておくと、形式の違いに動揺しにくくなります。
出典 (2026-09-09 確認):
- 有機溶剤中毒予防規則 (e-Gov 法令検索・2026年9月1日時点) — 第1条 (区分)、第16・17条 (制御風速・換気量)、第19条・第19条の2 (選任・職務)、第24・25条 (掲示・表示)、第28〜30条 (測定・健診)、第32〜34条 (保護具)、第37条 (技能講習)
- 労働安全衛生法 (e-Gov) — 第14条、第65条、第66条、第88条、第119条
- 作業環境評価基準 (昭和63年労働省告示第79号・厚生労働省法令等データベース) — 管理区分の判定表・管理濃度
- 有機溶剤等使用の注意事項の掲示の改正 (厚生労働省・平成27年1月1日適用) — 応急処置の新旧
- 防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、使用等について (令和5年5月25日 基発0525第3号) — 破過・使用時間・フィットテスト・防護係数
- 職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会 報告書 (令和3年7月19日) — 「5年後に廃止することを想定」の原文
- 労働技能講習協会 東京本部 有機溶剤作業主任者技能講習、愛知労働基準協会 同講習 — 科目と時間、受講料、受講資格の例
- 関西労働衛生技術センター 修了試験公開例題 (PDF) — 修了試験の形式の例









