結論: 商業簿記は「決算整理でどう表示するか」に集約される
日商簿記2級の商業簿記は 60 点。論点数が多く見えますが、第3問と決算整理で問われることは結局 「その項目を、決算でどう評価して、どこに表示するか」 に集約されます。
3 級から増えた論点のうち、出題が安定していて先に潰す価値があるのは次の 6 つです。
- 有価証券の保有目的別処理
- 税効果会計
- 一年基準による表示区分
- 当座借越の振替
- 200% 定率法
- 商品評価損・棚卸減耗損の表示
工業簿記の側は簿記2級 工業簿記の入門で整理しているので、あわせて読むと 100 点分の地図になります。
論点1: 有価証券は「持っている目的」で処理が変わる
有価証券は、何のために持っているかで決算時の扱いが変わります。ここを判定できないと仕訳の入口で止まります。
売買目的有価証券 — 時価評価して差額は当期の損益
決算時に時価へ評価替えし、差額は当期の損益(営業外損益)に計上します。
複数銘柄がある場合は、銘柄ごとに評価差額を出してから純額で処理します。
B 社株式 800,000 円 → 730,000 円 … △70,000 円(評価損) C 社株式 450,000 円 → 500,000 円 … +50,000 円(評価益) 純額 △20,000 円
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(借) 有価証券評価損 20,000 / (貸) 売買目的有価証券 20,000
🔴 評価損と評価益を両建てで計上する選択肢は誤りです。純額で処理します。
満期保有目的債券 — 償却原価法で額面へ寄せていく
額面と取得価額に差(金利調整差額)があるときは、償却原価法で満期まで少しずつ帳簿価額を額面へ近づけます。2 級で問われるのは定額法です。
額面 5,000,000 円を @96 円で取得 → 取得価額 4,800,000 円 金利調整差額 200,000 円 ÷ 保有期間 5 年 = 年 40,000 円
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(借) 満期保有目的債券 40,000 / (貸) 有価証券利息 40,000
割引発行(取得価額 < 額面)なら帳簿価額を増やす方向で、相手勘定は収益の有価証券利息です。逆に打歩発行なら減らす向きになります。
「相手勘定を有価証券評価益にする」誤答が定番なので、償却原価法の相手は利息と固定してください。
論点2: 税効果会計は「差異 × 実効税率」の 1 本
3 級にはない論点ですが、2 級で問われるのは実質 1 本の計算です。
税効果の金額 = 一時差異 × 法定実効税率
そのうえで向きを決めます。
| 一時差異 | 将来の税負担 | 計上する勘定 |
|---|---|---|
| 将来減算一時差異 | 軽くなる | 繰延税金資産(借方) |
| 将来加算一時差異 | 重くなる | 繰延税金負債(貸方) |
相手勘定はどちらも法人税等調整額です。
貸倒引当金繰入 100,000 円のうち 40,000 円が損金不算入、実効税率 30% → 40,000 × 30% = 12,000 円
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(借) 繰延税金資産 12,000 / (貸) 法人税等調整額 12,000
🔴 借方・貸方が逆の選択肢(繰延税金資産を取り崩す方向)が必ず混ざります。「将来減算=資産」と一組で覚えてください。
論点3: 一年基準は「決算日の翌日から 1 年」
流動と固定を分けるのが一年基準(ワン・イヤー・ルール)です。起算点は決算日の翌日です。
- 返済期日が 1 年以内の貸付金 … 流動資産の短期貸付金
- 返済期日が 1 年を超える貸付金 … 固定資産のうち投資その他の資産に長期貸付金
🔴 貸付金は金銭債権なので「有形固定資産」には入りません。有形固定資産は建物・備品など物理的な資産の区分です。ここを取り違える選択肢が定番です。
借入金も同じで、1 年を超えるものは固定負債の長期借入金になります。
論点4: 当座預金が貸方残高なら負債へ振り替える
当座預金は資産の勘定なので、貸方残高になっているのは当座借越の状態です。実質は銀行からの一時的な借入なので、決算でそのままにしておくと貸借対照表に「資産のマイナス」として出てしまいます。
(借) 当座預金 320,000 / (貸) 短期借入金 320,000
複数の銀行に口座がある場合、残高を相殺せず口座ごとに判定します。片方が借方残高でも、貸方残高の口座は振り替えが必要です。
論点5: 200% 定率法は「定額法の償却率を 2 倍」
200% 定率法の償却率 = (1 ÷ 耐用年数) × 2
耐用年数 8 年なら 1 ÷ 8 = 0.125 を 2 倍して 0.25 です。
取得原価 800,000 円・耐用年数 8 年・当期首取得 減価償却費 = 800,000 × 0.25 = 200,000 円
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(借) 減価償却費 200,000 / (貸) 備品減価償却累計額 200,000
当期首取得なら月割りは不要です。期中取得のときだけ月割りします。定額法で計算した 100,000 円が誤答の選択肢に必ず入るので、まず償却率を書き出してから計算に入ってください。
論点6: 商品評価損は売上原価の内訳項目
期末商品の評価では、数量の減少(棚卸減耗損)と単価の下落(商品評価損)を分けます。
帳簿棚卸 400 個 @1,550 円 / 実地棚卸 390 個 / 正味売却価額 @1,400 円
- 期末商品の帳簿棚卸高 = 400 × 1,550 = 620,000 円
- 差引の売上原価 = 期首 500,000 + 当期仕入 3,600,000 − 620,000 = 3,480,000 円
- 商品評価損は実地棚卸数量に対して計算 … 390 × (1,550 − 1,400) = 58,500 円
商品評価損は原則として売上原価の内訳項目として表示するため、売上原価に加算します。
🔴 評価損の計算に使うのは帳簿数量ではなく実地数量です。減耗した分はすでに無いので、評価の対象になりません。
さらに 6 論点 — ここまで通せば第3問は安定する
上の 6 つを固めたら、次はこの 6 つです。いずれも第2問・第3問で繰り返し出ます。
銀行勘定調整表は「どちらが間違っているか」で振り分ける
両者区分調整法では、企業側と銀行側を別々に調整して一致させます。振り分けの基準は 1 つで、記帳が漏れている・誤っているのはどちらかです。
| 調整項目 | どちらを直すか | 向き |
|---|---|---|
| 未通知の入金 | 企業側(当社が未記帳) | 加算 |
| 未渡小切手 | 企業側(支払処理を取り消す) | 加算 |
| 誤記入 | 企業側 | 内容による |
| 時間外預入 | 銀行側(銀行が翌日扱い) | 加算 |
| 未取付小切手 | 銀行側(相手がまだ換金していない) | 減算 |
🔴 企業側は「当社のミス」、銀行側は「タイミングのずれ」と考えると振り分けを間違えません。企業側の調整項目だけが修正仕訳の対象になる点も要注意です。
貸倒引当金は差額補充法が原則
繰入額 = 見積額 − 決算整理前の貸倒引当金残高
売掛金等 4,000,000 円 × 2% = 80,000 円が見積額で、残高が 30,000 円なら繰入は 50,000 円です。見積額 80,000 円をそのまま繰り入れる選択肢が必ず混ざるので、「差額だけ」と覚えてください。
その他有価証券は損益に出さない
全部純資産直入法では、評価差額を損益計算書に載せず、純資産の部の「その他有価証券評価差額金」として処理します。
(借) その他有価証券 60,000 / (貸) その他有価証券評価差額金 60,000
🔴 評価益を「有価証券評価益」として損益に計上するのは売買目的の処理です。ここが最も混同されます。売買目的は損益、その他有価証券は純資産と対で覚えてください。
経過勘定は一年基準と組み合わせて 3 分割になる
24 か月分をまとめて払った保険料は、決算で3 つに分かれます。
X6/1/1 に 720,000 円(24 か月分)を支払、決算日 X6/3/31 1 か月あたり 30,000 円
- 当期の費用 … X6/1〜3 の 3 か月分 = 90,000 円
- 前払費用(流動資産) … 決算日の翌日から1 年以内の X6/4〜X7/3 の 12 か月分 = 360,000 円
- 長期前払費用(固定資産) … 1 年を超える X7/4〜X7/12 の 9 か月分 = 270,000 円
🔴 繰り延べる分をまとめて「前払費用」にするのは誤りです。一年基準で流動と固定に分けます。
消費税(税抜方式)は差額の向きで科目が変わる
決算で仮払消費税と仮受消費税を相殺し、差額を確定します。
- 仮払 > 仮受 … 払いすぎなので還付される → 未収還付消費税(資産)
- 仮受 > 仮払 … 預かりが多いので納付する → 未払消費税(負債)
どちらも「差額がどちらに転ぶか」だけの話です。
外貨建とリースは「差額をどこに出すか」
外貨建金銭債権債務は、決算日の直物為替相場(CR)で換算替えし、差額は為替差損益に計上します。売掛金なら円高・円安で資産が増減し、買掛金なら逆向きに動きます。
リース(所有権移転外ファイナンス・リース、利子抜き法)は、
利息相当額 = リース料総額 − リース資産計上額
これをリース期間にわたり定額法で配分します。支払時は元本の返済(リース債務)と支払利息に分けて処理します。
リース料総額 1,200,000 円、計上額 1,080,000 円、期間 5 年 利息相当額 120,000 円 ÷ 5 年 = 年 24,000 円 年間リース料 240,000 円 のうち 24,000 円が支払利息、残り 216,000 円がリース債務の返済
純資産は「振り替え先」と「積立額の小さい方」
決算振替で損益勘定に集めた当期純利益は、繰越利益剰余金へ振り替えます。
(借) 損益 1,350,000 / (貸) 繰越利益剰余金 1,350,000
配当時には利益準備金を積み立てます。積立額は次の小さい方です。
① 配当金 × 1/10 ② 資本金 × 1/4 −(資本準備金 + 利益準備金)
②は「準備金は資本金の 4 分の 1 まで」という上限から、まだ積める残りを出す式です。②のほうが小さければそこで打ち止めになります。必ず両方計算して小さい方を採るのが要点です。
まとめ: 6 論点を「評価 → 表示」の順で通す
商業簿記の決算整理は、どの論点も 「いくらで評価するか」→「どこに表示するか」 の 2 段です。
| 論点 | 評価 | 表示 |
|---|---|---|
| 売買目的有価証券 | 時価 | 差額は当期の損益 |
| 満期保有目的債券 | 償却原価 | 相手は有価証券利息 |
| 税効果 | 差異 × 実効税率 | 将来減算なら繰延税金資産 |
| 貸付金・借入金 | — | 一年基準で流動/固定 |
| 当座借越 | — | 短期借入金へ振替 |
| 商品評価損 | 実地数量 × 単価差 | 売上原価の内訳 |
この形で押さえたら、簿記2級の予想問題で第3問の決算整理を通してみてください。手が止まる論点が絞れます。
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