社労士の年収は「ひとつの平均」では語れない
社労士(社会保険労務士)の年収を調べると、サイトによって数字がばらつき、戸惑った人も多いはずです。理由はシンプルで、社労士には大きく分けて「企業や事務所に雇われて働く勤務社労士」と「自分で事務所を構える開業社労士」があり、収入の決まり方がまったく違うからです。
勤務社労士は会社員と同じく給与で収入が決まります。一方の開業社労士は、顧問契約や業務の受託で得た売上から経費を引いた残りが手取りになります。この2つを混ぜて「平均◯◯万円」と語ると、実態からずれてしまいます。この記事では公的統計と業界調査をもとに、勤務と開業を分け、平均だけでなく中央値や分布の幅を添えて、できるだけ誠実に目安を示していきます。
なお、社労士という資格そのものの位置づけや独占業務については社会保険労務士(社労士)とは|独占業務・取得価値で整理しています。あわせて読むと、年収の背景にある仕事の中身がつかみやすくなります。
勤務社労士の年収の目安
勤務社労士の収入を考えるときの一つの手がかりが、厚生労働省の賃金構造基本統計調査です。この調査には社会保険労務士の区分があり、令和6年(2024年)の集計では、賃金から推計したフルタイム年収の目安が一般の会社員平均より高めに位置するとされています。
ただし注意点があります。この区分に含まれる人数は他の職種に比べて少なく、年により数字が動きやすい性質があります。地域や事業所の規模による差も大きく、後述する民間統計では地域別で数百万円単位の開きが示されることもあります。つまり「全国一律でこの額がもらえる」という性質の数字ではありません。
| 区分 | 収入の決まり方 | 目安の捉え方 |
|---|---|---|
| 勤務社労士 | 勤務先の給与体系 | 会社員平均より高めの傾向。ただし調査対象が少なく幅がある |
| 開業社労士 | 売上−経費 | 上限が高い一方、下振れも大きい。平均と中央値の差が大きい |
数字を見るときは、平均値だけでなく「自分が働く地域・事業所規模・経験年数」に引き付けて、幅のあるレンジとして受け止めるのが現実的です。
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開業社労士の売上は「平均」と「中央値」で印象が変わる
開業側でもっとも参考になるのが、全国社会保険労務士会連合会(社会保険労務士総合研究機構)の「2024年度社労士実態調査」です。この調査では、開業社労士の事務所あたりの年間売上が次のように示されています。
| 指標 | 2024年度社労士実態調査の値 |
|---|---|
| 年間売上の平均 | 約1,658万円 |
| 年間売上の中央値 | 550万円 |
| 1,000万円未満の割合 | 約6割 |
| 1,000万円以上の割合 | 3割強 |
| 1億円以上の割合 | 約2% |
ここで注目したいのが、平均約1,658万円に対して中央値が550万円という差です。一部の高収入層が平均を引き上げているため、平均値だけを見ると「開業すれば1,600万円稼げる」と誤解しがちです。実際には、ちょうど真ん中の人は550万円前後で、1,000万円未満が約6割を占めます。
この「平均は高いが中央値はぐっと低い」構造は、合格率の世界で総合点が届いても科目別基準点で振るい落とされる構造と少し似ています。難易度や合格基準の考え方は社労士の合格率・難易度|足切り(基準点)で詳しく触れています。
売上と手取り(所得)は同じではない
開業の数字を読むうえで最も誤解されやすいのが、売上と手取りの違いです。年間売上は、経費を差し引く前の事務所の総収入です。手元に残る所得は、ここからさまざまな費用を引いた後の金額になります。
| 売上から差し引かれる主なもの | 内容の例 |
|---|---|
| 事務所運営費 | 家賃、通信費、ソフト利用料、書籍・研修費 |
| 人件費 | 従業員・スタッフへの給与(雇っている場合) |
| 税・社会保険料 | 所得税・住民税・事業に伴う各種負担 |
| 営業・広告費 | 集客や顧客維持にかかる費用 |
同調査では開業事務所の平均従業員数が約2.7人とされています。人を雇えば売上を伸ばしやすくなる一方、人件費という大きな経費も発生します。つまり、売上が大きい事務所がそのまま高い手取りとは限りません。一人で運営する事務所と、スタッフを抱える事務所では、同じ売上でも残るお金が変わります。
開業を考えるなら、「いくら売り上げるか」と同時に「経費を引いていくら残るか」をセットで設計することが欠かせません。
収入を左右する要素
同じ社労士でも、収入には個人差があります。業界調査や実務の傾向から、収入に影響しやすい要素を整理します。
| 要素 | 収入への影響の傾向 |
|---|---|
| 顧問契約の数と単価 | 安定収入の土台。契約社数が多いほど売上が積み上がりやすい |
| 業務の幅 | 手続きだけでなく相談・助成金・規程作成まで広げると単価が上がりやすい |
| 開業からの年数 | 顧客基盤ができるまで時間がかかり、初期は売上が小さいことが多い |
| 専門特化 | 特定業界や分野に強みを持つと指名されやすい |
| 勤務先の規模・業種 | 勤務社労士では給与体系がそのまま反映される |
2024年度の調査では、開業時の年齢が若いほどその後の売上や顧問契約数が伸びている傾向も示されています。手続き中心の受託割合が高い一方、近年は相談業務や規程作成の比重が増えているという変化も読み取れます。収入を上げる道筋は、契約を増やすか、単価の高い業務へ広げるか、専門性で選ばれるか、のいずれか(または組み合わせ)に集約されていきます。
AI・電子申請時代に社労士の需要はどうなるか
「将来性」を語るうえで避けて通れないのが、AIと電子申請の広がりです。政府は行政手続きの電子化を進めており、人事労務ソフトやAIの普及によって、申請書類の作成・提出といった定型業務は手間が減っていく方向にあります。
これをもって「社労士の仕事はなくなる」と捉えるのは早計です。業界内では、定型的な手続き(1号・2号業務のルーティン部分)は効率化される一方で、企業ごとの事情をふまえて判断する業務はむしろ価値が残る、という見方が一般的です。
| 業務の性格 | AI・電子化の影響 |
|---|---|
| 定型の手続き・届出 | 効率化が進みやすい。スピードと正確さが当たり前になる |
| 助成金の活用提案 | 制度理解と提案力が必要で、代替が難しい |
| 労務相談・トラブル対応 | 企業の状況に応じた判断が求められ、需要が残りやすい |
| 就業規則・規程の設計 | オーダーメイド性が高く、専門家の関与が続きやすい |
ここから言えるのは、これからの社労士は「手続きを速く正確にこなす人」から「人や制度に関する課題を一緒に解く人」へと、求められる役割が移っていくということです。ツールに仕事を奪われるのではなく、ツールを使いこなして空いた時間を相談・提案に振り向けられるかどうかが、収入と将来性を分ける分岐点になります。
他資格と比べたときの社労士の位置づけ
人事労務や安全衛生の領域では、社労士のほかにも関連する国家資格があります。たとえば企業の労働環境を管理する第一種衛生管理者とは|役割と取得メリットは、社労士とテーマが近く、企業の人事・労務部門で評価される資格です。
社労士は独占業務を持つ難関資格で、勤務でも開業でもキャリアの幅が広いのが特徴です。一方で衛生管理者のような資格は、取得のハードルが社労士より低く、まず人事・労務分野に足場を作りたい人の入り口になります。「いきなり社労士は重い」と感じるなら、関連分野の資格でキャリアの方向性を確かめてから挑むのも一つの考え方です。年収という観点では、社労士は上限と裁量の大きさで魅力がある反面、その果実を得るには合格と実務経験という時間投資が前提になります。
数字に振り回されないための読み方
ここまでの内容を、年収データと向き合うときのチェックポイントとしてまとめます。
| 確認したいこと | なぜ大切か |
|---|---|
| 勤務か開業か | 収入の決まり方がまったく違うため、混ぜて読まない |
| 平均か中央値か | 平均は高収入層に引っ張られる。中央値で実感に近づける |
| 売上か手取りか | 開業の売上は経費前。残るお金は別物 |
| いつの調査か | 制度や景気で変わるため、年度を確認する |
| 出典はどこか | 公的統計や業界団体の調査かどうかで信頼度が変わる |
社労士の年収は、特定の一文では言い切れません。だからこそ、平均と中央値、売上と手取り、勤務と開業を切り分けて読む姿勢が、過度な期待や不安に振り回されないコツになります。本記事で挙げた数字も、あくまで「目安」と「分布の幅」として受け止めてください。
まとめ:次の一歩
社労士の年収は、勤務なら会社員平均より高めの目安、開業なら事務所売上の平均約1,658万円・中央値550万円という差の大きさが実態です。売上は手取りではなく、経費を引いた後に残る金額で考える必要があります。AIや電子申請で定型業務は効率化されても、相談・提案といったコンサル寄りの需要は残ると見られ、将来性は「役割の変化に対応できるか」にかかっています。
最初の一歩としておすすめなのは、自分が「安定の勤務」と「上限の開業」のどちらに惹かれるかを言葉にしてみることです。方向性が定まったら、社労士という資格の全体像と合格までの道のりを確認しましょう。資格の中身は社会保険労務士(社労士)とは、難易度や合格基準は社労士の合格率・難易度で整理しています。年収の数字は、合格してからの選び方しだいで大きく変わります。
※本記事の年収・売上は、厚生労働省「賃金構造基本統計調査(令和6年)」および全国社会保険労務士会連合会「2024年度社労士実態調査」などの公表値をもとにした目安です。最新の数値や詳細は各公表資料でご確認ください。



































































