冷凍3種の独学は「p-h 線図と冷凍サイクル 4 工程の体系理解」で決まる
第三種冷凍機械責任者は1 日の冷凍能力 100 トン未満の冷凍機を取り扱える上位国家資格で、ビルメン4点セット (危険物乙4・ボイラー2級・電工2種・冷凍3種) の最後の 1 つとして取得する方が多い試験です。高圧ガス保安協会 (KHK) が主催し、試験は法令 20 問 (60 分) + 保安管理技術 15 問 (90 分) の計 35 問・150 分。合格は各科目 60% 以上の 1 条件で、全体合格率は概ね 30〜40% で推移しています (年度により変動)。
3,002 問の解説を作る過程で見えてきたのは、独学合格者は保安管理技術 15 問 (試験全体の 43%) の核となるp-h 線図 (圧力エンタルピー線図) と冷凍サイクル 4 工程を、体系理解で攻略しているという共通行動でした。年 1 回 11 月の試験のため、6-8 月から学習開始する逆算スケジュールが鍵になります。
受験ルートの選択:試験のみ vs 検定試験+講習免除
冷凍3種には2 つの受験ルートがあり、独学開始前に選択する必要があります。
ルート 1:試験のみ (11 月本試験で両科目受験)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 試験日 | 年 1 回・11 月第 2 日曜 |
| 受験料 | 7,300 円 (郵送) / 6,800 円 (電子申請) |
| 受験科目 | 法令 20 問 + 保安管理技術 15 問 |
| 必要学習時間 | 120 時間 |
| メリット | コスト最小 |
| デメリット | 保安管理技術 (p-h 線図含む) 学習量が大きい |
ルート 2:検定試験+講習修了で保安管理技術免除
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 検定試験日 | 例年 6 月実施 (講習修了後) |
| 講習 | 3 日間・約 22,000 円 |
| 検定試験料 | 9,800 円 |
| 本試験 | 11 月本試験で法令のみ受験 |
| 必要学習時間 | 法令分のみ 50 時間 |
| 追加コスト | 約 24,000 円 (試験のみルートとの差額) |
| メリット | 保安管理技術の学習免除 |
| デメリット | 検定試験は本試験と同等難度 (一発勝負ではない強み) |
判断ライン
3,002 問の解説を作る過程で見えた判断基準は次の通りです。
- 試験のみルートが向く方:平日 60 分+週末 2 時間を 3-4 ヶ月確保でき、p-h 線図に強い苦手意識がない
- 講習免除ルートが向く方:年 1 回試験で失敗できない事情がある、p-h 線図に強い苦手意識がある、または機械系の実務経験がなく保安管理技術が独学で厳しい
ビルメン4点セットを完成させたい受験者は試験のみルートで合格する方が一般的ですが、年 1 回試験の失敗リスクを下げたい方は講習免除を選びます。
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120 時間の内訳:法令 50h + 保安管理技術 60h + 模試 10h
未経験者の総学習時間 120 時間は次のように内訳できます。
| 学習領域 | 問題数 | 配分時間 | 1 問あたり |
|---|---|---|---|
| 法令 (高圧ガス保安法 + 冷凍保安規則) | 20 問 | 50 時間 | 2.5 時間 / 問 |
| 保安管理技術 (冷凍サイクル + 冷媒物性 + 保安機器) | 15 問 | 60 時間 | 4 時間 / 問 |
| 模試 + 総復習 | — | 10 時間 | 模試 2-3 回 |
| 合計 | 35 問 | 120 時間 | — |
保安管理技術 15 問のうち、p-h 線図と冷凍サイクル 4 工程で約半分 (7-8 問) が出題されるため、ここに 30 時間を集中投入するのが独学設計のポイントです。
ビルメン併願者の 80-100 時間圧縮版
ボイラー2 級保持者は熱力学の基礎 (蒸気の状態変化・潜熱・顕熱) が既にあるため、保安管理技術の学習時間が圧縮できます。
| 学習領域 | 未経験者 | ボイラー2 級保持者 | 圧縮幅 |
|---|---|---|---|
| 法令 | 50 時間 | 40 時間 | 共通法令概念を流用 |
| 保安管理技術 | 60 時間 | 40 時間 | 熱力学基礎を流用 |
| 模試 + 総復習 | 10 時間 | 10 時間 | — |
| 合計 | 120 時間 | 90 時間 | 25% 圧縮 |
保安管理技術の核心:p-h 線図と冷凍サイクル 4 工程
冷凍3種で最も独特な学習領域がp-h 線図 (Pressure-enthalpy diagram、圧力エンタルピー線図) です。これを理解できるかが合否分水嶺になります。
p-h 線図の基本構造
p-h 線図は次の 2 軸で構成されます。
| 軸 | 単位 | 意味 |
|---|---|---|
| 横軸 (h) | エンタルピー (kJ/kg) | 冷媒 1 kg あたりの熱エネルギー量 |
| 縦軸 (P) | 絶対圧力 (MPa) | 縦軸は対数目盛 |
線図上には飽和液線と飽和蒸気線があり、その内側 (湿り蒸気域) と外側 (過熱蒸気域・過冷却液域) で冷媒の状態が変わります。
冷凍サイクル 4 工程と状態点
冷凍サイクルは次の 4 工程で構成され、p-h 線図上に状態点 1-2-3-4 として描かれます。
| 工程 | 機器 | 状態変化 | 状態点 |
|---|---|---|---|
| 蒸発 | 蒸発器 | 低温低圧で液→蒸気 (吸熱) | 4 → 1 |
| 圧縮 | 圧縮機 | 低圧蒸気→高圧蒸気 (仕事) | 1 → 2 |
| 凝縮 | 凝縮器 | 高温高圧で蒸気→液 (放熱) | 2 → 3 |
| 膨張 | 膨張弁 | 高圧液→低圧湿り蒸気 (絞り) | 3 → 4 |
各状態点でのエンタルピー値 (h₁・h₂・h₃・h₄) を読み取り、以下の式で冷凍能力・圧縮仕事・成績係数を計算します。
| 量 | 式 | 意味 |
|---|---|---|
| 冷凍能力 Qe | Qe = h₁ - h₄ (kJ/kg) | 蒸発で奪う熱量 |
| 圧縮仕事 Wc | Wc = h₂ - h₁ (kJ/kg) | 圧縮機が必要とする仕事 |
| 凝縮器放熱量 Qc | Qc = h₂ - h₃ (kJ/kg) | 凝縮で放出する熱量 |
| 成績係数 COP | COP = Qe / Wc | 冷凍効率の指標 |
| 膨張弁出口 | h₄ = h₃ (等エンタルピー絞り) | 膨張弁ではエンタルピー変化なし |
p-h 線図の習得手順
| 段階 | 内容 | 時間 |
|---|---|---|
| 段階 1 | テキストの図解で状態点 1-4 の位置を理解 | 5 時間 |
| 段階 2 | 自分で p-h 線図を白紙に写経 5 サイクル | 8 時間 |
| 段階 3 | 状態点から Qe・Wc・COP を計算する練習 10 問 | 8 時間 |
| 段階 4 | 凝縮温度・蒸発温度の変化による COP 変動を読み取る | 5 時間 |
| 段階 5 | 過熱・過冷却・湿り圧縮の状態点を識別 | 4 時間 |
| 合計 | — | 30 時間 |
保安管理技術の残り:冷媒物性と保安機器の数値暗記
p-h 線図 30 時間以外の保安管理技術 30 時間は次の領域に配分します。
冷媒物性 (10 時間)
| 冷媒 | 化学式 | 用途 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| R-22 | CHClF₂ | (旧) 業務用エアコン | HCFC、オゾン層破壊で 2020 年全廃 |
| R-32 | CH₂F₂ | 家庭用エアコン | HFC、GWP 中程度 (675) |
| R-410A | R-32 + R-125 混合 | 業務用エアコン | HFC 混合冷媒、GWP 高 (2090) |
| R-134a | CH₂FCF₃ | 自動車エアコン・冷蔵 | HFC、GWP 1430 |
| アンモニア (R-717) | NH₃ | 産業用大型冷凍 | 自然冷媒、可燃性・毒性あり |
保安機器の規格数値 (10 時間)
| 機器 | 規格数値 | 出典 |
|---|---|---|
| 安全弁 | 設定圧力は許容圧力の 1.1 倍以下 | 冷凍保安規則 |
| 圧力計 | 目盛盤の大きさ・取付位置 | 規則・例示基準 |
| 温度計 | 設置位置・測定範囲 | 規則・例示基準 |
| 液面計 | 直視式・遠隔式の使用区分 | 規則 |
| 受液器 | 容量・取付位置 | 規則 |
配管・付属品 (5 時間)
配管材料の許容圧力、フランジ継手の規格、伸縮継手の必要性などの数値暗記。
保守・点検 (5 時間)
定期自主検査の頻度 (法令で定める間隔)、保安検査の対象、危害予防規程の内容。
法令 50 時間:高圧ガス保安法と冷凍保安規則の暗記
法令 20 問は高圧ガス保安法 + 冷凍保安規則 + 一般高圧ガス保安規則の 3 つを横断します。
頻出論点
| 論点 | 数値 |
|---|---|
| 冷凍能力の算定 (R 値) | 法定算定式 |
| 第一種・第二種製造者の区分 | 1 日 50 トン以上 / 50 トン未満 |
| 第一種貯蔵所・第二種貯蔵所 | 容量別の区分 |
| 高圧ガスの定義 | 1 MPa 以上 (圧縮ガス)、0.2 MPa 以上 (液化ガス) |
| 製造許可・届出 | 第一種は許可、第二種は届出 |
| 保安検査 | 第一種製造者・特定施設対象 |
| 定期自主検査 | 1 年に 1 回以上 |
| 危害予防規程 | 第一種製造者は届出必要 |
| 保安教育 | 従業員への計画的実施 |
| 冷凍機械責任者の選任 | 製造施設の区分別 |
| 帳簿の備付け・保存期間 | 製造の状況・10 年保存 |
学習の順序
| 順序 | 内容 | 時間 |
|---|---|---|
| 1 | 用語の定義 (冷凍能力・高圧ガス・製造者) | 8 時間 |
| 2 | 製造者の区分と許可・届出 | 10 時間 |
| 3 | 保安検査・自主検査・教育 | 12 時間 |
| 4 | 危害予防規程・保安主任者の選任 | 8 時間 |
| 5 | 帳簿・報告・冷凍機械責任者の選任 | 7 時間 |
| 6 | 法令演習 50 問 + 復習 | 5 時間 |
| 合計 | — | 50 時間 |
年 1 回試験のスケジュール:8 月開始の 3 ヶ月プラン
冷凍3種は年 1 回・11 月第 2 日曜の本試験から逆算するスケジュール設計が必須です。
8 月開始の 3 ヶ月プラン (週 12 週 = 約 120 時間)
| 月 | 学習内容 | 配分時間 | 主な達成目標 |
|---|---|---|---|
| 8 月 (1 ヶ月目) | 法令の用語・製造者区分 + 保安管理技術の冷凍サイクル基礎 | 40 時間 | p-h 線図の基本構造を理解 |
| 9 月 (2 ヶ月目) | 法令の保安検査・教育 + p-h 線図の計算演習 | 40 時間 | 状態点 1-4 から Qe/Wc/COP を計算 |
| 10 月 (3 ヶ月目) | 法令演習 + 冷媒物性 + 保安機器の数値暗記 + 模試 2 回 | 35 時間 | 各科目 60% を超える |
| 11 月 (試験前 2 週) | 全範囲の弱点復習 + 模試 1 回 | 5 時間 | 直前総まとめ |
7 月開始の 4 ヶ月プラン (週 17 週 = 約 170 時間)
学習時間にバッファを持たせたい方や、p-h 線図に強い苦手意識がある方は 7 月開始の 4 ヶ月プランが安全です。8 月までの 1 ヶ月で p-h 線図の基礎を 40 時間かけて固めた後、8 月以降を 3 ヶ月プランと同じ流れで進めます。
落ちる人の典型 3 パターン
3,002 問の解説を作る過程で見えた、冷凍3種で独学者が落ちる典型パターンです。
パターン 1:p-h 線図を「線図」として読まずに数字だけ暗記
「冷凍能力 Qe = 100 kJ/kg、圧縮仕事 Wc = 30 kJ/kg、COP = 3.3」という数値だけ覚え、p-h 線図上の状態点の位置や軌跡を理解しないパターン。本番では条件が変わった p-h 線図問題が出題されるため、図上で状態点を読めない人は対応できません。
回避策:p-h 線図を白紙に 5-10 サイクル分写経し、状態点 1-2-3-4 の位置を視覚で覚える。テキストの図を見ながら自分で線を引く練習が必須。
パターン 2:法令の用語定義を曖昧に覚える
「第一種製造者は 1 日 50 トン以上、第二種は 50 トン未満」を覚えていても、本試験で「1 日の冷凍能力が 20 トンの場合の区分」が問われると即答できないパターン。冷凍能力の算定式と区分基準がペアで頭に入っていないと、選択肢で迷います。
回避策:冷凍能力 R 値の算定式を白紙で書ける状態にし、第一種 / 第二種の区分を製造者の能力で即判定できるよう練習する。
パターン 3:年 1 回試験で 9 月開始の遅延スタート
「夏休み中にやろう」と判断して 9 月開始になり、3 ヶ月で 120 時間が積めず保安管理技術で 60% に届かないパターン。年 1 回試験のため、開始時期の遅れは即不合格に直結します。
回避策:8 月開始を死守する。受験申込 (5-6 月) を済ませた直後の 7-8 月に学習を開始し、3 ヶ月プランに乗せる。
合格率 30-40% に入るための独学チェックリスト
- 受験ルートを選択した — 試験のみ (120h 学習) or 講習免除 (法令のみ + 32,000 円)
- 年 1 回試験の逆算スケジュールがある — 11 月本試験 / 8 月開始 / 申込 5-6 月
- p-h 線図に 30 時間を投入する計画がある — 写経 5-10 サイクル + Qe/Wc/COP 計算 10 問
- 冷媒 R-22/R-32/R-410A/R-134a/R-717 の物性表を暗記 — オゾン層破壊と GWP の数値
- 法令の用語定義と冷凍能力 R 値を即答できる — 第一種 / 第二種の区分
- 保安機器の規格数値を暗記 — 安全弁・圧力計・温度計・受液器
- 模試 2-3 回で各科目 60% を超える — 弱点科目特定
編集部より — p-h 線図を「写経 5 サイクル」する覚悟
3,002 問の解説を作って気づいたのは、冷凍3種の合格者はp-h 線図を写経で 5-10 サイクル分白紙に描いているという共通行動でした。落ちる受験者は「線図は読めれば十分」と判断してテキストの図を眺めるだけで済ませ、本番で条件が変わった線図に対応できず保安管理技術で 60% に届きません。
合格者は p-h 線図を自分の手で何度も描くことで状態点の位置を視覚記憶し、本番で「凝縮温度が上がると COP がどう変わるか」「過冷却度を 5℃ 増やすと冷凍能力がどう変わるか」のような条件変動問題に瞬時に対応できます。冷凍3種を確実に取りに行くなら、p-h 線図の写経 30 時間を学習計画の中心に据えてください。
ビルメン4点セットを揃えたい方は、ボイラー2 級で身につけた熱力学基礎が冷凍3種の保安管理技術に活きるため、学習時間を 90-100 時間に圧縮できます。逆に冷凍3種から始めて他のビルメン資格に進む方は、冷凍3種で身につけた熱力学・配管・保安機器の知識がボイラー2 級と電工2 種にも活きる強みがあります。
出典:
- 高圧ガス保安協会 (KHK) 第三種冷凍機械責任者試験 — 試験概要・受験案内・年 1 回 11 月実施
- 高圧ガス保安法 (昭和 26 年法律第 204 号)、同施行令、同施行規則
- 冷凍保安規則 (昭和 41 年通商産業省令第 51 号) — 第一種 / 第二種製造者の区分、保安検査、定期自主検査
- 一般高圧ガス保安規則 — 高圧ガスの定義、保安係員の選任
※受験料・法令の数値・冷媒区分は改正により変動するため、最新の受験案内および e-Gov 法令検索で確認してください。
























































