結論: 乙1は「燃えないのに激しく燃やす固体」を扱う資格、乙4からのステップアップが現実的
危険物取扱者乙種第1類 (以下「乙1」) は、消防法に基づく業務独占資格 です。第1類危険物 = 酸化性固体、つまり「自分自身は燃えないのに、周囲の可燃物に酸素を供給して激しく燃やす固体」の取扱・立会・保管を独占できます。
| 項目 | 乙1の内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 危険物取扱者乙種第1類 |
| 対象 | 第1類危険物 = 酸化性固体 |
| 根拠法令 | 消防法 |
| 法的地位 | 業務独占資格 |
| 取扱・立会権限 | 第1類危険物のみ |
| 試験形式 | 3科目35問 (法令15 / 物化10 / 性消10)、各60%の三重基準 |
| 試験時間 | 2時間 (新規受験) / 35分 (科目免除受験) |
| 受験資格 | なし (年齢・学歴問わず受験可能) |
| 受験料 | 5,300円 (2024年5月改定後) |
| 免状申請料 | 2,900円 |
編集部の見立てでは、乙1は「乙4取得後に科目免除で重ねる類」として最も合理的に使えます。乙4などの乙種を1つ持っていれば、乙1は性質消火10問・35分だけで受験でき、対策範囲が酸化性固体の性質と消火に絞られるためです。乙1単独で求人が多いわけではない点も含めて、本記事で誠実に整理します。
第1類「酸化性固体」とは何か
乙1を理解する出発点は「酸化性固体」という言葉です。難しく見えますが、要は次の性質を持つ固体です。
- それ自体は不燃性 — 単独では燃えない
- 強い酸化力 (酸素を出す力) を持つ — 加熱・衝撃・摩擦・他の物質との接触で酸素を放出する
- 可燃物と混ざると激しく燃焼・爆発する — 自分は燃えなくても、周りの紙・木・有機物を激しく燃やす
たとえば塩素酸カリウムはマッチの頭薬や花火に、過塩素酸アンモニウムはロケット推進剤に使われます。これらは「燃料」ではなく「燃焼を助ける酸化剤」です。乙4のガソリン (それ自体が燃える引火性液体) とは、危険の出方が正反対だと押さえてください。
乙4 (引火性液体) との性質の違い
| 観点 | 乙1 (酸化性固体) | 乙4 (引火性液体) |
|---|---|---|
| 物質の状態 | 固体 | 液体 |
| 自分は燃えるか | 燃えない (不燃性) | 燃える (引火性) |
| 危険の本質 | 酸素を供給して他を燃やす | 蒸気が引火・燃焼する |
| 代表物質 | 塩素酸カリウム・過マンガン酸カリウム | ガソリン・灯油・軽油 |
| 火災予防の要点 | 可燃物・熱・衝撃から遠ざける | 火気・静電気・蒸気の滞留を避ける |
同じ「危険物乙種」でも、類が違えば学ぶ中身はほぼ別物です。乙4で覚えた知識がそのまま乙1に使えるわけではなく、性質・消火は学び直しになる点に注意してください。
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第1類危険物の対象物質
第1類に含まれる主な品名と代表物質、特性を整理します。
| 品名 | 代表物質 | 特性・用途 |
|---|---|---|
| 塩素酸塩類 | 塩素酸カリウム・塩素酸ナトリウム | 衝撃・摩擦に敏感、花火・マッチ・除草剤 |
| 過塩素酸塩類 | 過塩素酸アンモニウム・過塩素酸カリウム | 強い酸化力、火薬・ロケット推進剤 |
| 無機過酸化物 | 過酸化ナトリウム・過酸化カリウム | 水と反応し酸素発生 (注水厳禁) |
| 亜塩素酸塩類 | 亜塩素酸ナトリウム | 漂白・殺菌剤、衝撃に敏感 |
| 臭素酸塩類 | 臭素酸カリウム | 加熱で酸素放出 |
| 硝酸塩類 | 硝酸カリウム・硝酸ナトリウム・硝酸アンモニウム | 肥料・黒色火薬の原料 |
| よう素酸塩類 | よう素酸カリウム | 加熱で分解、酸化剤 |
| 過マンガン酸塩類 | 過マンガン酸カリウム | 紫色結晶、酸化剤・殺菌・分析試薬 |
| 重クロム酸塩類 | 重クロム酸カリウム・重クロム酸アンモニウム | 橙色、めっき・分析・酸化剤 |
第1類物質に共通する取扱いの基本は「可燃物・有機物・強酸との混合を避ける」「加熱・衝撃・摩擦を与えない」「冷暗所で換気して保管する」の3点です。物質名は化学っぽく見えますが、塩・酸化剤として身近な薬品でもあります。
乙1最大の論点 — 消火方法が物質で分かれる
第1類の消火は「物質ごとに正解が変わる」のが乙1学習の核心です。ここを取り違えると本番で失点します。
| 物質グループ | 消火方法 | 理由 |
|---|---|---|
| 一般の第1類 (塩素酸塩類・硝酸塩類・過マンガン酸塩類等) | 大量の水で冷却消火 | 温度を下げて酸素放出と分解を止める |
| 無機過酸化物 (過酸化ナトリウム・過酸化カリウム等) | 乾燥砂・膨張ひる石・粉末消火剤で窒息消火 (注水厳禁) | 水と反応してさらに酸素と熱を出すため |
無機過酸化物 (アルカリ金属の過酸化物) だけは、水をかけると逆に火災を悪化させます。「第1類は基本は注水だが、無機過酸化物だけは砂」という対比が、性質消火10問で最も問われる定番です。乾燥砂・膨張真珠岩・膨張ひる石による窒息消火は、第1類のどの物質にも使える安全策として覚えておくと整理しやすくなります。
試験範囲: 3科目35問
乙1の試験は他の乙種類と共通の3科目構成です。
| 科目 | 出題数 | 合格基準 |
|---|---|---|
| 危険物に関する法令 | 15問 | 9問以上 (60%) |
| 基礎的な物理学及び基礎的な化学 | 10問 | 6問以上 (60%) |
| 危険物の性質並びにその火災予防及び消火の方法 | 10問 | 6問以上 (60%) |
| 合計 | 35問 | 三重基準 |
マークシート方式、試験時間は2時間です。注意したいのは合格基準で、3科目それぞれが60%以上でなければなりません。たとえ法令と物化が満点でも、性質消火が5問 (50%) なら不合格です。1科目でも足切りを割ると落ちる「三重基準」が、危険物試験の難しさの正体です。
乙種他類保有者の科目免除
すでに乙種の免状を1つでも持っていると、乙1の受験では 法令と物理化学が免除 され、性質消火10問・35分だけの受験になります。
| 受験パターン | 出題数 | 試験時間 | 合格基準 |
|---|---|---|---|
| 新規受験 (全3科目) | 35問 | 2時間 | 各科目60% (三重) |
| 乙種他類保有 (性消のみ) | 10問 | 35分 | 性消60% (6問以上) |
乙4をはじめ乙2〜乙6のいずれかを持っていれば、この免除が使えます。乙1で新たに学ぶのは「酸化性固体の性質・火災予防・消火」の10問分だけになるため、乙4合格者が短期間で重ねやすいのが乙1の現実的な立ち位置です。
科目免除を前提にした独学・講座の判断は専用記事で整理しています
誰が乙1を受験するのか
乙1は「これ一本で就職する資格」ではなく、目的を持った人が重ねる類です。実際の受験者像を整理します。
| 受験者層 | 乙1を取る理由 |
|---|---|
| 乙4合格者 | 科目免除で性消10問のみ、甲種への積み上げや業務範囲拡大 |
| 化学工場・薬品製造の実務者 | 酸化剤・工業薬品 (塩素酸塩・過マンガン酸塩等) を扱う |
| 火薬・花火・肥料関連 | 過塩素酸塩・硝酸塩を原料として扱う現場 |
| 分析・研究機関 | 過マンガン酸カリウム・重クロム酸カリウム等の試薬管理 |
| 甲種を狙う人 | 乙種4種類取得で甲種の受験資格を満たす1ピース |
ゼロから危険物を始める人にはまず乙4を勧めます。乙1は乙4の次以降に「業務で必要」「甲種の受験資格を揃えたい」という明確な理由がある人向けです。
乙1取得のメリットと位置付け
乙1を取る価値を整理します。
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 第1類物質の取扱独占 | 化学・薬品・火薬・肥料・分析の現場で酸化性固体を扱える |
| 科目免除で取りやすい | 乙種保有なら性消10問35分のみ、追加コストが小さい |
| 甲種の受験資格に近づく | 乙1・2・3・5・6から4種類取得で甲種を受験できる |
| 専門性の証明 | 酸化剤を扱う部署での配属・保安担当の幅が広がる |
乙1単独の手当や求人は乙4ほど大きくありません。価値が出るのは「乙4 + 乙1」のように複数を組み合わせたとき、または甲種への積み上げの一手としてです。乙種は乙1・2・3・5・6から4種類を取れば甲種の受験資格を満たせるため、乙1はその布石になります。
乙1が向く人・向かない人
| 向く人 | 向かない人 |
|---|---|
| すでに乙4等を持ち科目免除を使える | 乙4すら未取得 (まず乙4が先) |
| 化学・薬品・火薬・肥料・分析の実務がある | 第1類物質と無縁の業種で手当目的のみ |
| 甲種の受験資格 (乙種4種類) を積み上げたい | ガソリンスタンド等で乙4だけで足りる |
| 酸化剤・工業薬品の保安担当を志す | 1資格で就職に直結させたい (乙1単独は弱い) |
誠実にお伝えすると、乙1は「とりあえず取れば就職に強い」タイプの資格ではありません。乙4という土台の上に、業務上の必要性や甲種という目標があって初めて生きる類です。
関連資格との関係
乙1と周辺資格の位置関係を整理します。
| 資格 | 乙1との関係 |
|---|---|
| 危険物乙4 (引火性液体) | 乙1受験前の標準ルート、科目免除で乙1が取りやすくなる |
| 危険物乙3 (自然発火性・禁水性) | 乙1と同様、甲種受験資格の1ピース |
| 危険物乙6 (酸化性液体) | 乙1と性質が近い (酸化性)、液体版にあたる |
| 危険物甲種 | 乙種4種類で受験資格、全類取扱・保安監督者選任 |
| 高圧ガス・公害防止管理者 | 化学プラント保安で併用される資格 |
乙6 (酸化性液体) は乙1 (酸化性固体) と「酸化性」という性質が共通で、固体か液体かの違いです。酸化剤を扱う現場では乙1と乙6をセットで持つと対応範囲が広がります。
費用試算
乙1取得にかかる費用の目安です。
| 項目 | 費用 | 備考 |
|---|---|---|
| テキスト + 問題集 | 1,500〜4,000円 | 乙1特化または乙種12356セット教材 |
| 受験料 | 5,300円 | 消防試験研究センター |
| 免状申請料 | 2,900円 | 都道府県知事 |
| 合計 (科目免除受験) | 約9,700〜12,200円 | 乙種保有者の追加取得 |
| 合計 (新規3科目受験) | 約1.5〜2万円 | 乙4と同等の教材費 |
乙種を持っている人の追加取得なら1万円前後で済みます。教材は乙1単独より、乙1・2・3・5・6をまとめて扱う「乙種12356対応」型を使うと、他類への横展開も視野に入れられます。
まとめ: 乙1は乙4の上に積む「酸化性固体」の専門資格
危険物乙1は、第1類危険物 (酸化性固体 = 自分は燃えないのに他を激しく燃やす固体) の取扱・立会を独占できる業務独占資格です。
- 対象物質: 塩素酸塩類・過塩素酸塩類・無機過酸化物・硝酸塩類・過マンガン酸塩類など
- 固有の論点: 一般の第1類は注水で冷却消火、無機過酸化物だけは注水厳禁で乾燥砂・粉末消火剤
- 試験: 3科目35問 (法令15 / 物化10 / 性消10)、各科目60%の三重基準
- 乙種保有者は性質消火10問・35分のみ、乙4からの追加取得が現実的
- 価値が出るのは「乙4 + 乙1」や甲種 (乙種4種類) への積み上げ
ゼロから危険物を始めるなら乙4が先、乙1は業務上の必要性や甲種という目標がある人が重ねる類だと整理してください。
乙1の合格率・難易度を乙4と比較する / 乙1は独学か通信講座かを判断する
出典
- 一般財団法人 消防試験研究センター — 危険物取扱者試験 — 受験案内・試験科目・合格基準・受験料・科目免除
- 一般財団法人 消防試験研究センター — 試験実施状況 — 類別の受験者数・合格率
- 消防法、消防法施行令、消防法別表第一 — 第1類危険物 (酸化性固体) の品名・指定数量







































































































