中小企業診断士は、経営コンサルティングに関する唯一の国家資格 (名称独占資格) です。弁護士や税理士のような独占業務はありませんが、経営診断・助言や、よろず支援拠点をはじめとする公的支援機関の専門家として幅広く活躍できます。この資格の関門は「1次試験」と「2次試験」という二段構えで、両者は出題形式も問われる力もまったく異なります。違いを誤解したまま走り出すと、1次は通っても2次で足踏みしがちです。この記事では、出題形式・合格基準・日程・費用・合格率を公式情報で整理し、財務会計を軸にした攻略順までを示します。数値は年度で改定されるため、申込前に中小企業診断協会の公式案内で最新を確認してください。
中小企業診断士はどんな資格か
中小企業診断士は「中小企業支援法」に基づく国家資格で、試験は一般社団法人 中小企業診断協会 (中小企業庁の登録試験機関) が実施しています。位置づけを最初に押さえておくと、学習のゴールが見えやすくなります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 資格の性質 | 経営コンサルティングの国家資格 (名称独占) |
| 独占業務 | なし (名称を独占、業務は開放) |
| 主な活躍の場 | 経営診断・助言、公的支援機関の専門家派遣、企業内診断士 |
| 受験資格 | なし (年齢・学歴・実務経験不問) |
| 試験の段階 | 1次試験 → 2次試験 (筆記+口述) → 実務補習/実務従事で登録 |
| 実施機関 | 一般社団法人 中小企業診断協会 |
「名称独占」とは、登録した人だけが「中小企業診断士」を名乗れるという意味です。業務そのものは資格がなくても行えますが、公的支援の現場では資格保有が信頼の証として重視されます。出典は中小企業庁および中小企業診断協会の公表情報です。
1次試験と2次試験の違いを一目で
まず全体像です。1次と2次は「測るもの」が違います。1次は知識のインプット量、2次はその知識を事例企業に当てはめて診断・助言する応用力を問います。
| 比較軸 | 1次試験 | 2次試験 |
|---|---|---|
| 形式 | マークシート (択一) | 筆記 (記述) +口述 |
| 科目数 | 7科目 | 4事例 |
| 問われる力 | 知識の理解・暗記 | 与件分析・診断・助言・記述 |
| 実施時期 | 例年8月 | 筆記は例年10月、口述は例年翌1月 |
| 合格の考え方 | 総点60%以上+足切り回避 | 相対的な得点上位 |
| 科目合格制度 | あり (一部科目の持ち越し可) | なし |
この「暗記の1次」「応用の2次」というギャップが、診断士学習の最大の特徴です。1次の知識は2次の土台になるため、無関係ではありません。むしろ1次で得た7科目の言葉を、2次では「経営者へのアドバイス」に翻訳し直す作業になります。
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1次試験の7科目とマークシート形式
1次試験は7科目で構成され、すべてマークシート方式です。例年8月の2日間で実施されます。科目ごとの位置づけを把握しておくと、得意・不得意の見取り図が描けます。
| 科目 | 主な内容 | 2次との関係 |
|---|---|---|
| 経済学・経済政策 | ミクロ・マクロ経済の理論 | 間接的 |
| 財務・会計 | 簿記・財務分析・ファイナンス | 事例IVに直結 |
| 企業経営理論 | 経営戦略・組織・マーケティング | 事例I・IIに直結 |
| 運営管理 | 生産管理・店舗販売管理 | 事例IIIに直結 |
| 経営法務 | 会社法・知的財産・契約 | 間接的 |
| 経営情報システム | IT・情報技術・統計 | 間接的 |
| 中小企業経営・中小企業政策 | 中小企業白書・支援施策 | 間接的 |
財務会計・企業経営理論・運営管理の3科目は、後述する2次試験の事例に直結する「コア科目」です。経済学や経営情報システムが苦手でも、コア科目を固めておくと2次への接続がスムーズになります。なお出題範囲や配点は年度で見直されるため、詳細は公式案内で確認してください。
1次試験の合格基準と科目合格制度
1次試験の合格基準は「総得点の60%以上」かつ「40点未満の科目が1つもないこと」が目安です。1科目でも大きく崩すと、総点が足りていても合格にならない設計になっています。
| 項目 | 内容 (目安) |
|---|---|
| 合格基準 | 総得点の60%以上 |
| 足切り | 1科目でも40点未満があると不合格 |
| 科目合格 | 60点以上の科目は一定期間持ち越し可能 |
| 有効期間 | 科目合格は当年含め一定年度内で利用 |
注目したいのが「科目合格制度」です。合格基準に届かなくても、60点以上を取った科目は次年度以降に免除を選べます。働きながら受験する人にとって、1年で7科目を一度に仕上げる負担を分散できる仕組みです。制度の適用条件や有効期間は改定されることがあるため、利用する際は公式案内で当年度のルールを確認しましょう。
2次試験の4事例と筆記の特徴
2次試験の筆記は、例年10月に4つの事例で実施されます。各事例は「与件文」と呼ばれる企業のケースを読み、設問に文章で答える形式です。正解が公表されない試験であり、模範解答は各予備校の推定にとどまる点も1次との大きな違いです。
| 事例 | テーマ | 関連する1次科目 |
|---|---|---|
| 事例I | 組織 (人事を含む) の戦略・管理 | 企業経営理論 |
| 事例II | マーケティング・流通の戦略・管理 | 企業経営理論 |
| 事例III | 生産・技術の戦略・管理 | 運営管理 |
| 事例IV | 財務・会計の戦略・管理 | 財務・会計 |
事例I〜IIIは記述の論理性と与件の読み取りが勝負で、事例IVは計算 (経営分析・CVP・NPVなど) が中心です。事例IVは唯一「答えが数値で定まる」部分が多く、簿記や財務分析の地力がそのまま得点につながります。財務が得意な受験者が2次で有利と言われるのは、この事例IVの安定感が理由です。
2次の口述試験と登録までの流れ
筆記に合格すると、従来は口述試験へ進みました。口述は筆記で出題された事例をもとに、面接形式で受け答えをする試験です。ただし令和8年度(2026年度)から2次の口述試験は廃止される旨が中小企業庁から公表されており、対象年度では筆記合格が2次合格に直結します(最新の実施有無は公式案内で確認してください)。そして合格後すぐに「中小企業診断士」を名乗れるわけではなく、登録には実務のステップが必要です。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 2次筆記試験 | 4事例の記述 (例年10月) |
| 2次口述試験 | 筆記合格者が対象 (例年翌1月) |
| 実務補習/実務従事 | 合格後、規定日数の実務を経験 |
| 登録申請 | 要件充足後に中小企業診断士として登録 |
口述試験の合格率は高く、筆記を通過できれば最後の関門は比較的越えやすいとされます。なお制度は見直しが入る場合があり、口述試験の取り扱いについては今後の変更が案内されることがあります。登録要件の最新情報は、必ず中小企業診断協会の公式案内で確認してください。
日程・受験料・合格率の目安
ここまでの数値を年度の実績とあわせて整理します。受験料は近年改定が続いているため、下表は目安として読み、申込時は公式の最新金額を確認してください。
| 項目 | 1次試験 | 2次試験 |
|---|---|---|
| 実施時期 | 例年8月 | 筆記10月・口述翌1月 |
| 受験料 (令和7年度) | 14,500円 | 17,800円 (筆記) |
| 合格率の目安 | おおむね20〜40% | おおむね18〜20% |
| 直近実績 | 令和7年度 23.7% | 令和6年度 18.7% |
加えて、1次と2次を同じ年に通す「ストレート合格率」はおおむね4〜8%とされ、難関国家資格の一つに位置づけられます。学習時間の目安は合計1,000時間前後 (700〜1,000時間という見立てが多い) で、計画的な積み上げが前提になります。なお令和8年度の1次試験は受験料が17,200円へ引き上げられると案内されており、年度による改定に注意が必要です。
財務会計を軸にした攻略順
最後に学習の順序です。診断士は範囲が広いため、闇雲に手を付けるより「2次に効く科目から固める」のが筋の良い進め方です。下表は一つの設計例です。
| 段階 | 取り組み | ねらい |
|---|---|---|
| 土台づくり | 財務・会計 (簿記の基礎) | 事例IVまで一気通貫で効く |
| コア科目 | 企業経営理論・運営管理 | 事例I〜IIIの言語を獲得 |
| 残り科目 | 経済学・法務・情報・中小政策 | 1次の総点と足切り回避 |
| 2次へ接続 | 事例演習で知識を運用 | 暗記を診断・助言へ翻訳 |
財務会計を最初の土台に置く理由は、1次の財務・会計と2次の事例IVの両方に長く効くからです。会計が苦手な人ほど、いきなり診断士の財務に挑むより、簿記で仕訳と財務諸表に慣れてから入ると挫折しにくくなります。簿記3級で全体像をつかみ、簿記2級で工業簿記・原価計算まで届かせると、事例IVの計算が「知っている処理」に変わります。
会計の入り口として、まずは簿記3級とはで試験概要をつかみ、独学で進めるなら簿記3級の独学の手順が参考になります。原価計算まで踏み込みたい段階では簿記2級とはで工業簿記の範囲を確認しておくと、診断士の財務分野への橋渡しがスムーズです。
次の一歩
中小企業診断士の関門は、暗記の1次 (7科目マークシート) と応用の2次 (4事例筆記+口述) という二段構えで、攻略の鍵は両方に効く財務会計を早めに固めることでした。まずは今年度の試験日程と受験料を中小企業診断協会の公式案内で確認し、学習カレンダーに8月 (1次) と10月 (2次筆記) を書き込むところから始めましょう。会計に不安があるなら、診断士の参考書を開く前に簿記3級の財務諸表から触れておくと、その後の事例IVがぐっと楽になります。広い試験範囲も、効く順番から積み上げれば一歩ずつ前に進みます。








































